噂の真相
何があったのか?(第2幕〜エピローグ)


!注意!
このコーナーは原作のネタバレのページですので、読みたくない方は今すぐに戻ってくださいね。

プロローグ〜第1幕

参照文献:新潮文庫「レ・ミゼラブル」佐藤朔・訳


第2幕

ミュージカルの歌詞さて、真相は?
ここに作ってくれる?
アンジョルラス
    ここに築こう
    我らのバリケード
ラマルク将軍の葬式のあと、パリには数カ所のバリケードができました。アンジョルラスのバリケードの舞台となったシャンヴルリー通りには、コラントという酒場があって、その日は朝から風邪を引いたジョリとボシュエ(レーグルのことです)が居座っていました。やがてグランテールも来て酒盛りとなり、すっかり出来上がった頃にアンジョルラスたちの一群が通りかかったので、ボシュエが「ここにバリケードを作ったらとてもいいよ」と声をかけ、バリケードはコラント酒場をバックに築かれました。確かにそこは場所がよく、バリケードは上手い具合に仕上がりました。そしてこのコラントという酒場が、のちのち負傷者をかくまう野戦病院の役割も、最後の砦の役割もしたのです。また、原作でのアンジョルラスの死に場所となったのもこの酒場の2階です。(詳しくはかなめちゃんのアンジョルラス編に載っています)
俺は寝てるだけ
グランテール
    戦うさお前らは吠えるだけ
えらそうに歌っている彼は、実はずっと寝ていました(笑)。朝からワインを3本ほど飲んでいた彼は、アンジョルラスに「バリケードを汚すな、頭を冷やしてこい!」と怒鳴られ、すでに泥酔状態だったのでそのまま眠ってしまい、翌日の昼過ぎにバリケードが陥落しようとしている時までまったく何も気づかずにぐっすりと寝ていたのです。そして、ついに生き残っているのがアンジョルラスただ1人となった時、それまでの喧燥がうそのように静かになり、彼は騒音ではなく静けさによって目覚めたのでした。彼がいかにして死んでいったかは、ぜひかなめちゃんに「コーナージャック」していただきましょう(笑)。
最初の死者は
アンジョルラス
    彼女が最初 最初の死者だ
バリケードの最初の死者は、マリウスに父のことを教えてくれた教会委員の老人、マブーフでした。彼はつつましい暮らしをしていましたがどんどん貧乏になり、最後まで取っておいた大好きな本も売らなければならなくなり、思いつめて反乱の行列に参列したのです。マブーフ老人はバリケードが出来てからずっと黙って座っていましたが、バリケードを作って真っ先にアンジョルラスが立てた赤い旗が最初の攻撃で撃ち落とされてしまい、「まず旗を立て直そう」とアンジョルラスが叫んだ時、しり込みをしている反乱軍の中でただ一人立ち上がったのです。射撃隊に狙われているバリケードの頂上へ旗を立てに行くということは、即、死を意味することでした。しかし、おそらくは心の中で死を望んでいたであろうこの哀れな老人は、少しもひるまずバリケードを登り、旗を立てて「共和国万歳」と叫び、一斉射撃の餌食となってしまいました。彼の遺体はアンジョルラスと暴徒達の尊敬を受け、厳粛にコラント酒場へと運ばれたのでした。
かわいそうな最後
マリウス
    エポニーヌ怪我してる
    どこも血だらけだ
ミュージカルではコゼットに手紙を渡しに行ってバリケードに帰る途中に撃たれたことになっていますが、原作ではバリケードの中でマリウスを庇って撃たれ(詳しくはキャラクター編エポニーヌ参照)、小さいバリケードの暗い片隅まで這っていき、誰にも気づいてもらえず、ひとりで苦しんでいました。偶然現れたマリウスを呼び止め、最後に思いを打ち明けましたが、その後もそこに放置され、ミュージカルのように皆に悲しんでもらうこともなく、淋しい最後でした。
俺に渡したのは坊や
マリウス
    力を借りたい 願いを叶えて
    手紙をコゼットに まだいるだろうか
手紙については、かなりの変更があります。なにしろ原作では6週間も逢い引きしていたマリウスとコゼットが、ミュージカルではたった一度しか会っていないのですから、無理もありません。この変更については見事としか言いようがないでしょう。エポニーヌの健気さがよく伝わるエピソードになっていますよね。さて、肝心の原作ですが、まず毎日会っていたマリウスとコゼットがすれ違ってしまうところで、コゼットがマリウスに宛てて手紙を書くのですが、これを頼まれて預かったのがエポニーヌです。(詳しくはキャラクター編エポニーヌ参照)結局彼女はマリウスを騙しとおすことはできずに、死の直前にこの手紙をマリウスに渡します。手紙を読んだマリウスは、コゼットがまだ自分を思ってくれているものの、結局運命は何も変わっておらず、バリケードで死ぬことを決意し、別れの手紙をしたためます。そして死にゆくエポニーヌがふともらした「あれは弟なの」という言葉に、少年ガブローシュが恩返しをすべきテナルディエの息子であると知り、彼をこの危険から遠ざけるために手紙を翌朝届けてくれるように頼むのでした。つまり、コゼットに届ける手紙を預かったのは本当の男の子であるガブローシュだったのです。
いいとこどりのマリウス
マリウス
    迎え撃つぞ 来るなら来い
自殺を決意してバリケードへ向かったマリウスですが、すでに戦闘は始まっていて、彼は中に入るのを躊躇してしまい、自己嫌悪に陥ります。勇敢な戦士だった父に比べて自分は、同胞(同じフランス人という意味で)同士の小競り合いに参加しようとしている。しかも、中では友人達が必死で戦っていると言うのに、自分はここまできて怖じ気付き、悩んでいる!一瞬落ち込んだマリウスですが、すぐに前向きに考えを改めます。そして、ゴルボー屋敷事件の時にジャベールから預かっていた2挺の銃を持ってバリケードへと入っていきました。ちょうど中では戦いが繰り広げられていて、マリウスの銃はクールフェラックを襲っていた兵士とガブローシュを襲っていた兵士を倒しました。その後、火薬のつまった樽をバリケードまで運び、まさに襲い掛かろうとバリケードに上っていた警察軍に向かって「退がらなければ爆発させる」と脅してついに退却させたのです。このため、彼はすぐに英雄となり、バリケードの指導者として迎えられましたが、戦っている最中はどこか夢遊病のような上の空で、結局実質的な指揮はやはりアンジョルラスが取っていました。
そんな言い方ひどいわ
ジョリ
    軍服の男 何の用だ
軍服の男とは、国民軍の制服を着たバルジャンのことですが、原作ではこの制服が実に有意義に使われています(詳しくはキャラクター編バルジャン(その2)参照)。この皆が感動した英雄的行為と、マリウスの「僕はこの人を知っている」という保証のおかげで、「後ろから撃つと命はない」などと脅迫されることもなく、バルジャンは味方として受け入れられました。
引っ越しました
バルジャン
    俺はプリュメ街55番にいる
実はバリケードに向かう前、バルジャン親子は引っ越しています(詳しくはキャラクター編バルジャン(その2)参照)。原作ではちゃんと「ロマルメ通り7番地にいる」と言っています。
本音と建前
バルジャン
    御心でしょうか まるで我が子です
嘘ですね(笑)。何しろ、コゼットがマリウスへ宛てた手紙を読んで、彼が感じたものは「憎悪」でした(詳しくはキャラクター編バルジャン(その2)参照)。その「憎悪」に対して良心の呵責を感じたとはいえ、数時間後に「我が子」と思えるほどの変化はなかったと思います。マリウスを救ったのは、どう贔屓目に見てもコゼットのことを考え、コゼットの幸せのために、だったようです。
セリフなし
バリケード
    戦闘シーン
最後の戦いは、ほとんどセリフも歌もないのですが、この間にも原作ではいろいろなことが起こります。まず、ミュージカルではマリウスが撃たれ、アンジョルラスがそれを見てバリケードに駆け上がりますが、原作ではマリウスはすでにかなり頭を弾がかすめていて、顔は血だらけ、ついに鎖骨を撃たれて倒れた時、アンジョルラスとは離れたところにいました。ずっとマリウスに注意していたバルジャンが駆け寄りマリウスを受け止めるのですが、意識を失う直前、マリウスは抱き留められたことを感じ、自分は捕虜になったのだと思います。アンジョルラスもまた後退を余儀なくされている最中にマリウスの姿が見えないのに気づいた時、彼は死んだのか捕虜になったのだろうと考えました。この時、バリケードは陥落する寸前であり、みんな自分のことで精一杯でした。また、かなめちゃんのアンジョルラス編にあるように、バリケードは国民軍や市警隊に崩されてしまい、アンジョルラスら生き残りの者は全てコラント酒場の2階へと追いつめられ、そこで息耐えたのでした。この最後の戦いの最中に、バルジャンはマリウスを抱えて下水道へと逃げ込んだのです(詳しくはキャラクター編バルジャン(その2)参照)。また、ジャベールはすでに警察に帰り、別の職務に就いていましたので、バルジャンを確認に戻ることはありませんでした。
これが本当の悪だくみ
テナルディエ
    そう 誰かが片付けにゃ
    宝が泥にもぐる前にさ
バルジャンが疲れ果てて下水道を歩いている頃、セーヌ河のほとりではジャベールがある泥棒を尾行していました。あちこちで暴動が起きているとはいえ、警察は日常の職務を放棄するわけにはいかないのです。かくして彼は、まんまと泥棒を袋小路へ追いつめましたが、追いついてみると泥棒は忽然と消えていました。他に逃げ道はなく、あとはセーヌ河に飛び込むしかないと思えたその袋小路には、下水道の入り口があったのです。入り口にはしっかり鍵がかかっていて、どうやら泥棒は政府の鍵を持っているようでした。その泥棒こそ、テナルディエだったのです。つまり彼は下水道で死体を抱えて歩いていたわけではないのですが、ミュージカルの下水道でやっていたこと、死体から金品を盗むという行為を、ずっと以前、ワーテルローの戦場でしていたのでした。テナルディエは確かにマリウスの父の命を救いましたが、感謝をするには値しない人間だったのです。下水道に逃げ込んだテナルディエは、マリウスを連れたバルジャンに出会いますが、闇の中で泥の中を歩きつづけたバルジャンをそうとは見分けられず、死体を連れた殺人犯だと思い込んで取り引きを持ち掛けます。そしてバルジャンからお金をもらった上、ジャベールへの生け贄として鍵を開けて外へ出してあげたのでした。(詳しくはキャラクター編Vol.2バルジャンその2とテナルディエ参照)
呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン
バルジャン
    ジャベール すぐ来ると思ったぞ
    またも職務の奴隷か?
上記のように、ジャベールはバルジャンを追いかけていたわけではなく、泥棒を追いかけていたらその穴からバルジャンが出てきたのでした。しかも最初は汚れのためそれとわからず、「誰だ?」と問いかけたところ、本人が「ジャン・バルジャンだ」と名乗ったのです。こうして原作では複雑にすべての人物が絡み合っていろんな事象が起きているだけで、それほどジャベールはバルジャンを目の敵に追っていたわけではありませんでした。
お客さん、どちらまで?
ジャベール
    すぐゆくのだ 待つぞさあ
    24653
バルジャンは、バリケードでジャベールと出会い逃がしてあげた時点で、もう捕まる覚悟はできていたけれど、その前にこの男を彼の家に連れて行くことを手伝って欲しいと頼みます。マリウスは身に付けていた手帳に、もし自分が死んだらフィーユ・デュ・カルヴェール通りの祖父の家に死体を送るようにと書き込んでおいたので、バルジャンはそれを読んでそこへ連れて行くつもりだったのです。ジャベールはバリケードで縛られながらもしっかりとスパイ活動をしていたので、マリウスの顔と名前は記憶にありました。ジャベールは考え込むと、尾行の時にかならず従えておく馬車を呼び、すぐにバルジャンとマリウスを乗せて祖父のジルノルマン氏の家まで運んであげました。そしてマリウスを引き渡すと、再び馬車に乗り込み、一度だけ家に寄らせてくれというバルジャンの願いをまた聞きいれ、今度はロマルメ通りへと向かうのでした。家の前まで行くと、ジャベールは御者に賃金を払って帰してしまい、玄関の前で待つと言ってバルジャンが家に入るのを見送ります。バルジャンはコゼットに別れを告げ、マリウスのことや必要なことを伝え、最後の処置をとろうとしていました。とはいえ、司教様に出会ってからというもの、たとえどんな苦難が待ちうけているとしても、自殺という自分に対する暴行行為は他人に対するものと同じく、どうしても取れなかったので、純粋にジャベールに捕まるべく、思い残すことがないようにと一旦家に戻ったのでした。階段を上がる途中、ふっと休んで窓の外を見たバルジャンは愕然とします。そこにはもうジャベールの姿はありませんでした。
「ここ」ってどこ
マリウス
    不思議だ 僕をここへ
    誰が運び入れたのか
ミュージカルでは「ここ」がどこなのかはっきりと提示されていませんが、このようにしてマリウスはジルノルマン祖父の家へ運ばれたのでした。ジルノルマン氏は最初マリウスが死んでしまったものと思い、半狂乱になりますが、まだ息があると知るとあまりの喜びで気を失ってしまいました。そして翌日からは医者に何度も同じことを聞き、毎日枕元で彼を見守りました。4ヶ月もの間生死の境をさまよっていたマリウスは、生命の保証は得られたものの、その後2ヶ月寝たきりの生活を余儀なくされました。この間、毎日バルジャンはコゼットが作るガーゼを持参し、様子を聞きに来ていました。すっかりよくなったマリウスは、祖父への懐疑的な態度をなかなかくずしませんでしたが、ある日思い切ってコゼットのことを切り出すと、今までのことが嘘のようにジルノルマン氏はあっさりと結婚を承諾したのです。ジルノルマン氏は、孫への愛のためにすっかり意地などなくし、気分はもうマリウスの奴隷でした。マリウスの愛を得るためなら何でもする気になっていました。すっかり好々爺となった祖父は、すぐにフォーシュルヴァン(バルジャン)とコゼットを家に招きました。そしてついにマリウスとコゼットは再会したのです。
ありがとう、パパ
バルジャン
    溢れる愛 お前にやろう
バルジャンはマドレーヌ市長時代に貯めておいたお金をモンフェルメイユ近くの森に隠していました。マリウスが良くなったと知ると、これを全て掘り返し、マリウスとの再会に呼ばれた時に持参して、コゼットの持参金と言って差し出したのです。ジルノルマン氏は終身年金で生活していましたが、財産はほとんどなく、マリウスは祖父が死んでしばらくしたら一文無しになるところだったのですが、この持参金のおかげで若い夫婦の今後の生活は保証されました。金額は約60万フランで、今の円に換算するとだいたい6億円くらいのようです。バルジャンは自分の分としてたった500フランだけ抜いて、後は全部コゼットに渡してしまいました。その上結婚がスムーズに運ぶように、市長時代の知識や経験を生かして、コゼットの過去を「死に絶えた一家の孤児」として、身分証明書まで作り変えてしまいました。そして本当は修道院で死んだフォーシュルバンの娘で、自分は実の父親ではないとしました。善良な修道院は人の身元問題を探る才能も趣味もなく、問い合わせに対して、何も疑わずに証言しました。こうして、バルジャンはコゼットの新しい幸せのために、何から何まで揃えてあげたのです。コゼットはコゼットで、小さい頃から謎には慣れていましたので、長い間父と呼んでいたバルジャンが本当の父ではないと知り少し悲しい思いはしたものの、何も疑うことなく、バルジャンに作られた経歴を信じたのでした。
まだ愛してはいないかもしれない
バルジャン
    愛する息子よ
バルジャンは、マリウスには親切だけれども冷ややかな態度で接していました。時々ごくごく一般的な世間話をして、ある時は談笑するまでになりましたが、それ以上に打ち解けることはなく、マリウスももともとが内気な性格なので、バルジャンが自分を助けてくれたのではというぼんやりとした疑惑はありましたが、本人に聞くなどということはできずにいました。ましてや長い闘病生活でバリケードの事件自体がおぼろげなぼんやりとしたものになってしまっていたのです。時折友人たちのことを思い出し、苦しくなりましたが、コゼットとの愛によって忘れることができました。そして結婚前になんとか義務を果たそうと、必死でテナルディエと自分を助けてくれた人を探し出そうと調べまわりましたが、どちらも手がかりは途中で途絶えてしまいました。彼はコゼットの持参金をさえ投げ出して探し出すつもりだとバルジャンに話しますが、バルジャンは黙っているばかりでした。結婚式の当日、バルジャンは嘘の怪我で結婚式の署名をジルノルマン氏に代わってもらい、会食も傷が痛むからと言って帰ってしまいました。これらはすべて、のちのちコゼットたちの幸せに「ジャン・バルジャン」という不幸が入り込まないようにという配慮でした。
結婚式後の苦悩
バルジャン
    わしも話そう 恥に満ちた物語を
    君だけには明かしておこう

結婚式の翌日、マリウスを訪ねると、彼は自分がジャン・バルジャンという徒刑囚であったこと、コゼットとは何の血縁関係もないこと、一緒に住むことはできないことを話します。マリウスが何のために自分に告白するのかと尋ねると、彼は自分に正直であるため、良心からであると答えます。そして、一緒には住まないけれど、これからもコゼットに会うことは許して欲しいと頼むと、マリウスは「毎日いらっしゃい」と返事をしますが、その後バルジャンの告白を反芻して苦悩します。マリウスは「法こそ正義」と考える未熟な部分がまだあり、泥棒である彼とそれまでの彼の誠実な行いを考え合わせ、どう対応したらいいのか悩みますが、結局コゼットからは遠ざけるべきだと考え、毎日来るように言ってしまったことを後悔します。翌日からバルジャンは毎日コゼットを訪ねますが、会見の場所は屋敷で最も暗く汚い部屋が充てられました。彼はコゼットにもう父とは呼ばせず、自分もコゼットのことを「奥さん」と呼び、今までのような愛情は顕さないよう努めました。コゼットは不審がり、必死で彼の愛を取り戻そうとしましたが、それでもバルジャンの奇行に慣れていたので、やがて何も反論しなくなり、親しさも消えていきました。会見の部屋は最初は暖炉に火が入っていましたが、2ヶ月ほど経ち、バルジャンが1日の会見時間を少しずつ延ばそうとしていることに気づいたマリウスが難色を示し、暖炉に火が消え、やがて椅子さえなくなりました。それをバルジャンは全て「私が自分で頼んだのだ」と言いながらもマリウスの真意を悟り、ついにコゼットを訪ねるのをやめるのでした。コゼットは数日は気にしたものの、彼女にはマリウスさえいればよかったので、だんだん気に留めなくなりました。その後もバルジャンは一目でもコゼットに会いたいと願い、屋敷の近くまで毎日通いますが、屋敷を見ると足を止め、苦渋に満ちた顔で引き返します。その道程がだんだん短くなり、ついには家から出なくなり、その翌日にはベッドからも出なくなってしまいます。何も食べずに過ごす日が増え、見る間にバルジャンはやつれ、衰えていくのでした。ある日、もう歩く力も残っていないバルジャンは、最後の手紙を書くために1日かかってベッドから起き、家具を暖炉の側へ動かし、ペンを持ちます。しかし、その間にもコゼットの小さい服を何時間も眺め、数行書くと「もう二度とコゼットに会えないなんて!」と胸の中で叫ぶのでした。
生き残っていた悪党
テナルディエ
    あいつは人殺し
    現場見たぜこの俺
マリウスとコゼットの結婚式は、マルディ・グラと呼ばれるカーニバルの日でした。町中に仮装した人々が溢れる日で、普段は表通りを歩けないテナルディエも仮面をつけて馬車に乗っていました。テナルディエ夫人はすでに獄死していて、彼は末娘のアゼルマと一緒でしたが、すれ違った婚礼の馬車に、見覚えのある男を認めると、アゼルマにあの馬車に乗っている人たちを調べるように命じます。その後、徹底的にバルジャンを調べたらしいテナルディエは、婚礼から1年経って、バルジャンが死の床につこうとしているその日その時、マリウスを訪ねました。テナールという名で「秘密を買って欲しい」という手紙を渡し、すっかり変装してマリウスと対面しますが、マリウスは手紙の筆跡とたばこの臭いで、すぐにテナルディエと見抜きます。テナルディエはゴルボー屋敷の隣人だったマリウスをよく見たことがなかったので、目の前にいるポンメルシー男爵と結びついておらず、初対面だというのに変装も見破られ、さらにまず手始めにと出した「バルジャンという名の徒刑囚」という秘密はあっさり「知っている」とかわされ、一瞬ひるみますが、まだ他の証拠を握っているために、お金を出せばもっと秘密を教えると言って帰りません。
テナルディエ唯一の善行
マリウス
    これは僕の きっと神の知らせだ
話が戻りますが、マリウスは、バリケードでバルジャンがスパイを連れて出るのを見ていました。彼は戦いの最中どこか上の空だったので、それまでスパイのことをよく見もせず気にしていませんでしたが、それを見たとき、見覚えのある顔だと気づき、アンジョルラスに名前を尋ねますが、「ジャベール」と聞いた瞬間銃声が聞こえ、フォーシュルバン氏がジャベールを殺したと思っていました。さらに、弁護士の仕事を通じ、以前マドレーヌ氏という偉人がある町を富ませ、貧乏人を救っていたことは知っていましたが、マドレーヌ氏が稼いで貯めたお金をある囚人が引き出したという間違った情報も持っていて、バルジャンがマドレーヌ氏のお金を盗んだものと思っていました。バルジャンの告白とあいまって、マリウスの中ではすっかりバルジャンは悪人になってしまっていたのです。マリウスはテナルディエに自分はこんなことも知っているとその話をしますが、予想に反するテナルディエの「それは違うようだ」との返事に驚きました。テナルディエは昔の新聞を2つ取り出し、マドレーヌがバルジャン本人であること、ジャベールは自殺したのだということを話します。特に、ジャベールの自殺の記事には、警察がジャベールを自殺と認めた上で、ジャベール本人の警視総監への報告「バリケードで捕虜になったがある暴徒の情けで助かった。その暴徒は自分の頭を撃ち抜くかわりに空へ向けて発砲したのだ」とも出ていました。これを知ったマリウスの中で、バルジャンは一瞬のうちに悪人から偉人へと変わりますが、テナルディエの話はまだ続きます。この上でまだ彼を人殺しだと言うのです。下水道で出会った男がバルジャンだと悪人の勘で察知したテナルディエは、やつは確かに金目当てに殺人を犯したのだ、これが証拠にその死体の服から千切ったものだと布切れを出しました。そしてその下水道には恐ろしい泥の穴があり、彼はその泥の穴に死体を捨てることもできた。しかし、下水道工事夫がすぐに見つけてしまう可能性もあるので、河に捨てるためにまさに命懸けでわざわざそこを渡ったのだ、と説明します。マリウスは真っ青になって、何かの手がかりになるかもしれないと取っておいた、自分の上着を取り出します。その布切れは、やぶれた服とピッタリ合いました。全てを悟ったマリウスはテナルディエに向かって君こそ恥知らずだ、泥棒だ、人殺しだと罵りながらも、これで大佐(マリウスの父)の義理を果たせるとばかりにお金を投げつけます。そして、あわててコゼットを呼ぶと馬車に乗ってロマルメ通りの家へと急ぐのでした。

エピローグ

ミュージカルの歌詞さて、真相は?
さようなら、パパ
バルジャン
    あなたの御国へ
    今こそ召したまえ
バルジャンが「もう一度だけコゼットに会いたい、しかしもう会えないのだ」と胸の中で叫んだ瞬間、ドアをノックする音が聞こえました。マリウスとコゼットが駆けつけたのです。バルジャンは2人に「来てくれたのか!それでは許してくれるのだね?」と何度も尋ねます。マリウスは自分の方こそ、と許しを請い、何がなんでも一緒に住もうとバルジャンを説得します。しかし、もう手後れでした。バルジャンは弱りきっていて、今にも命の火が消えそうでした。それまでに何度か来てくれた医者が訪ねてきますが、マリウスの眼差しの問いに首を振るばかりです。バルジャンは、コゼットとの会話の中で聞いた、マリウスが自分の残した60万フランを疑って使わないのが気がかりだといい、あれは本当に自分が稼いだお金なのだ、あれを使ってくれないと、自分の一生が無駄になってしまうと説明します。そしていよいよ死期が訪れ、バルジャンは2人を側へ呼びます。バルジャンは最後まで、自分のために抜き取った500フランさえ使っておらず、それを貧しい人にやってほしいと頼み、コゼットの母の名はファンティーヌだと伝え、コゼットとマリウスが幸せに暮らすよう願い、自分の墓には名前はいらないが目印の石を置いて欲しいと頼みます。やがて目が見えなくなり、2人にもっとそばへ寄ってと言いながら、バルジャンは息を引き取りました。
追記
ペール・ラシェーズ墓地の淋しい一角に、裸の墓石がありました。そこには名前はなく、しかし誰かが書き付けたらしい4行詩が鉛筆で書かれていましたが、それも今は薄れているだろう、とあります。その詩を紹介します。
    彼は眠る、奇しき運命だったが、
    彼は生きた、彼は死んだ、天使を失ったときに。
    すべては自然にひとりでに起こった。
    昼が去ると 夜が来るように。

プロローグ〜第1幕

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